受動態の和訳は奇妙 [英語学]
【2011年07月17日に掲載、18日に訂正】-英語の受動態の教材では、日本語訳が特に不自然だ。
「この自転車は健によって使われています。」「この机はトムによって作られました。」などと書いてある。奇妙な言い方だ。日本語では普通「この自転車は健が使っています。」「この机はトムが作りました。」と言う。
英語では「自転車」や「机」について話したくなって、それで文を始めた場合は動詞の部分はbe+過去分詞の受動態にしなくてはならないが、日本語では物で文を始めても受け身にする必要はない。「これは健が使っている」「これはトムが作った」と言える。
「あなたたちは加藤先生に教えられていますか。」は一層奇妙だ。日本語では普通「教わっていますか」と言うのだ。「教える」には、受け身を表す「教わる」という対応形があるから、それを使えばいい。
・国語では人が主語で被害を表す
日本語の「れる」「られる」は欧州語の受動態とは違って、被害を表すのが基本だと思う。「先生に怒られた」「友達に先に行かれた」「子供に先立たれた」などのように、自分が困った事態に陥ったことを表すのが基本的な用法だろう。
それに日本語の受け身の文では、主語は殆どの場合人だ。物を主語にして「これは使われています」などと言うと不自然だ。だから英語の教材でもなるべく人を主語にしておけば、和訳した時に不自然にならないで済む。14日と15日のエントリーに載せた練習問題では、元の文の目的語をなるべく人にしておいた。
メディアも政治家も役人も不自然な受け身を乱用するが、その一因が英語教育にあるのなら、受動態の文の主語はなるべく人にしておいた方がいい。英語を勉強して言語感覚がおかしくなり、日本語が下手になってしまっては本末転倒だ。物が主語になっている時、教師は直訳に加えて意訳も添えて配慮する必要がある。
なお受動態はpassive voiceの訳語だ。「声」を意味するvoiceを使うのは、ラテン語で「態」をvox(ウォークス)と言い、それを直訳したからのようだ。vox はvoiceの語源だが、「声」に加えて「語」や「発言」という意味もある。
・参考資料
http://tb.sanseido.co.jp/english/newcrown/200710worksheet-data/worksheets_book2_ver4.doc
http://study.005net.com/English/3/ukemi.pdf
Zandvoort, "A Handbook of English Grammar"(1975) p.53