スロベニア語には双数が残っている! [他の言語]
【2012年11月03日】-印欧語の格変化の話しを続ける。
スロベニア語は6格だが、双数が残っている。双数とは、物が二つある時の形だ。西ヨーロッパの現代語では名詞に単数形と複数形があるが、印欧祖語では双数形もあったらしい。名詞の語形が一つの時と、二つの時と、三つ以上の時で少しずつ違うのだ。アフリカの言語には、三つや四つにも特別な形があると聞いたことがある。
双数は両数とも言い、dualの訳語だ。スロベニア語に双数があるのは驚くべきことだ。
チェコ語には、身体を表す語など一部に双数があるらしい。Old Englshでも人称代名詞に双数が残っていたが、時々しか使わなかった。リトアニア語の標準語に双数は残っていない。
双数などと聞くと誰しも「なんて複雑なのだろう」と思うが、ある点で複雑なら他の点は簡単なことが多いように思う。何もかも複雑だと、ネイティブ・スピーカーでも覚え切れない。
ロシア語では格変化は大変だが、時制は三つしかない。未来は助動詞を使って表すので、固有の形を覚える必要はない。
英語とドイツ語しかやっていない人は動詞の未来変化を知らないだろうが、ロマンス語では未来変化がある。
双数まで考え合わせると、リトアニア語の古さは際立たなくなる。
・参考資料
http://en.wikipedia.org/wiki/Slovene_nouns
19世紀の言語学者はなぜリトアニア語に興奮したのか [他の言語]
【2012年11月01日】-前回のエントリーを書いてから調べていたら、チェコ語とセルボ・クロアチア語には7格も残っていて、名詞は男性、女性、中性に分かれることが分かった。
これを知ると、19世紀の言語学者がどうしてリトアニア語に大きな関心を寄せていたのか理解できなくなる。当時の学者は「リトアニア語には7格も残っていて、印欧祖語やサンスクリット語より1格少ないだけだ」と興奮していた。
リトアニア語では男性名詞と中性名詞が融合して、文法的な性別は男女二つになっている。だから文法範疇の点では、3性のチェコ語などの方が古い。
私の勉強が足りないから、リトアニア語の古さが分からないのだろうか。
ルーマニア語を除くロマンス語でも男性名詞と中性名詞が融合して、男女2性になっている。男性と中性は格変化が似ていた。
・参考資料
http://en.wikipedia.org/wiki/Czech_declension
http://en.wikipedia.org/wiki/Lithuanian_grammar
ペルシャ語には冠詞がない! [他の言語]
【2012年10月30日】-先日公立図書館でペルシャ語の入門書を拾い読みしていたら、「冠詞がない」と書いてあったので、びっくりした。ロシア語には定冠詞も不定冠詞もないが、現代の印欧語で冠詞のない言語は珍しい。
インドヨーロッパ語族には元々冠詞はなかった。ラテン語には全くないし、Old English や古典ギリシャ語では定冠詞だけあった。段々冠詞を使うようになったのだ。
不定冠詞は元々数詞の1だ。英語のa, an はoneと同源だ。oneの弱形と考えてよい。anの方が古い形で、子音の前では-nが落ちてaと言うようになった。
フランス語では「1」も不定冠詞もun, une だし、ドイツ語では「1」はeinsで、不定冠詞はeinだ。
定冠詞は指示代名詞(「それ」など)に由来する。英語のtheも元々指示代名詞だった。
ドイツ語やフランス語で「私は学生です」などとと言う時、「学生」の前に不定冠詞をつけないが、略すのではなく、まだ不定冠詞が成立していなかった頃の名残なのだろう。
Ich bin Student.
Je suis etudiant.(フランス語のアクサンは入力が大変なので、省略)
英語では補語が一人だけの地位を表す語(Presidentなど)になっている場合、無冠詞にする。これも名残かも知れない。
・格変化もなし
冠詞は印欧語の特徴だからペルシャ語にないことにびっくりしたが、ペルシャ語では名詞などが格変化もしないとあったので、もっと驚いた。
印欧祖語では格変化は8格だった。(主格、属格、与格、対格、奪格、所格、具格、呼格)。ラテン語やロシア語では6格だ。
現代のヨーロッパ語で格変化が残っているのは、ロシア語やポーランド語などスラブ語派の言語が多い。英語や北欧語では所有を表す-sだけが残っていて、ロマンス語派では所有格もなくなった。
ちなにみ英語では-'sをつけるが、ドイツ語やスウェーデン語では-sだけつけるので見落としやすい。
またブルガリア語はスラブ語派に属するが、名詞の格変化は殆どなくなって、呼格だけ残っている。代名詞は英語のように格変化する。
格変化は古い特徴なので残っている言語に冠詞はないことが多いが、名詞や形容詞の格変化を失った言語では大抵冠詞があると思う。
ペルシャ語は名詞に格変化がないという点では新しいが、冠詞はない点では古い。新しい特徴と古い特徴を併せ持っている不思議な言語だ。
なおペルシャ語はアラビア文字で書くので、勉強しにくい。
・参考資料
http://en.wikipedia.org/wiki/Persian_grammar
http://en.wikipedia.org/wiki/Bulgarian_language
バスク語には受動態がない! [他の言語]
【2012年10月28日】-26日東大の言語学研究発表会がまたあったので、行ってみた。今回のテーマはバスク語だった。
バスクはスペインとフランスにまたがる地域で、大西洋に面している。67万人ほどがバスク語を話している。印欧語に挟まれているが、印欧語族には属さない。
言語学では、能格(ergative)という特別な格が有名だ。名詞が他動詞の主語になる場合、その名詞を能格に置かなければならないのだ。能格と言っても別に難しくはなく、名詞に-kをつけるだけだ。
発表のテーマは「自分の」を表す代名詞が先行詞に関してどのような制約を受けるかだったが、私の関心を一番引いたのはバスク語には受動態がないということだった。
受動態のない言語があるような気がしていたが、印欧諸語にはどれにもあるはずだし、日本語にも受け身があるのだから、そんな言葉はないだろうと思いっていた。だが、実際にはあった。
英語などでは受動態を、主語を略したり、話しのテーマ(主題topic)を変えたりするために使うが、バスク語では主語を言わなくても文が作れるし、語順が自由らしいので、受動態を使わなくても主題を変えることができる。それで受動態がないのだろう。
スペイン語やイタリア語では主語に合わせて動詞が大きく変化するので、主語を略せるが、受動態がある。ロシア語でも主語を略せるが、受動態をあまり使わない。
語順が自由だったラテン語にも受動態があったし、ギリシャ語には中動態まであったから、語順が自由な言語には受動態が絶対にない訳ではない。
バスク語に受動態がないと言ってもそれは共通語についてのみ言えることで、発表者が調査したレクンベリ村の方言では受動態を使うこともあるそうだ。フランス語の影響だろうと話していた。
そういえば23日頃の深夜床に入っていて、突然受動態のない言語があるような気がした。最近受動態については考えていなかったので、不思議だ。26日の発表を予知したのだろうか。
・リンク
http://groups.google.com/group/linguistics-jp/browse_thread/thread/3926ed2895bef137
http://en.wikipedia.org/wiki/Passive_voice
バロン・ドールはゴールデン・ボールのこと [他の言語]
アフリカーンス語についてもう少し [他の言語]
【2010年06月14日】-日本人は誰でもアフリカーンス語の単語を知っている。それは「アパルトヘイト」だ。南ア共和国は以前、法律で黒人を差別していた。それを「アパルトヘイト」と言い、日本では「人種隔離政策」と訳していた。アフリカーンス語やオランダ語では apartheid と書く。元々は単に「分離」という意味だ。
d を「ト」と読んだのは、アフリカーンス語でもオランダ語やドイツ語のように音節の最後の有声子音字は無声子音として読むのだろう。
apartheid を分解すると、a+part+heid となる。a はフランス語の前置詞で、「ア・ラ・カルト」の「ア」と同じ。part も元々フランス語で「部分」の意味。英語の part もフランス語から入ってきた。-heid は接尾辞で、英語の -hood やドイツ語の -heit と同源だ。
・言語名
アフリカーンス Afrikaans は元々オランダ語で「アフリカの」という形容詞で、そこから言語名に使うようになった。だから強いて訳せば「アフリカ語」となる。
印欧語では、国名の形容詞形が言語や人種を表すことがある。Japan の形容詞形は Japanese で「日本の」「日本語」「日本人」を表す。(France の形容詞形は French で、「フランスの」「フランス語」を表すが、「フランス人」は表さない。フランス人は Frenchman か Frenchwoman と言う。)
・歴史
オランダが南ア共和国を植民地にしていたから、オランダ語を使うようになり、他の言語の影響を受けて別の言語になった。
同国はオランダが支配していたが、イギリスがオランダと戦って勝ったので、今度は英語を使うようになった。
政府は英語で動いているようだ。マンデラ元大統領など幹部は大抵英語で演説する。
現地語の公用語が多いのはヨーロッパ人のせいではないが、英語とアフリカーンス語が公用語に入っているのは、以前欧州人が植民地にしていたからだ。
公用語が多いと不便だろう。まだ植民地支配に苦しんでいるし、これからも苦労は続くだろう。
南アフリカのアフリカーンス語はオランダ語にそっくり [他の言語]
【2010年06月14日】-南アフリカ共和国でサッカーのワールド・カップを開催しているので、今日は同国の言語事情について書いてみる。
南アフリカ共和国には公用語が11もある。英語、アフリカーンス語、ズールー語、コサ語、北ソト語、ソト語、スワジ語、南ンデベレ語、ツォンガ語、ツワナ語、ヴェンダ語だ。
英語は誰でも知っている。ズールー語やコサ語はアフリカの現地語で、バンツー語派に属するらしい。(両語はきっと似ている。)
アフリカーンス語は、オランダ語から分かれたヨーロッパ語だ。以前はオランダ語の方言と言っていたが、語彙や文法が若干違うので、段々違う言語として扱うようになった。
だがオランダ人は聞けば大体分かるそうだ。オランダ語から分かれたということは、英語やドイツ語と同じくインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属するということだ。
・オランダ語との比較
アフリカーンス語にはマレー語や現地語の単語が入り込んでいるらしいが、骨格はオランダ語だ。ウィキペディアの英語版から単語を拾った。英語にも似ている。
オランダ語 アフリカーンス語 意味
boek boek 本
zuid suid 南
naam naam 名前
goed goed よい
http://en.wikipedia.org/wiki/Afrikaans#History
http://nl.wikipedia.org/wiki/Afrikaans
意地を張って漢字を使わない朝鮮人 [他の言語]
【2009年06月23日】-テレビを見ていると、時々朝鮮語を映します。朝鮮でも漢字を使っていると言いますが、北朝鮮の新聞も韓国のウェブ・サイトも、漢字はほんの少しでハングル文字ばかりです。
今でも漢語は使っているけれど、中国に反発して漢字は殆ど使わず、ハングルばかりで書いているそうです。ハングルは日本の平仮名や片仮名のように表音文字なので、同音異義語を区別できず、分かりにくいはずです。
不便でも漢字を使わないのだから、意地っ張りです。北朝鮮が困った国であることは誰でも知っていますが、韓国も内向きで駄目なのです。
ハングルは文字の名前なのに、言語の名として使うことがあります。NHK が二十数年前、朝鮮語講座を始める時、「ハングル講座」と称したことから始まったようです。朝鮮語と言うと韓国人が怒り、韓国語と言うと北朝鮮人が嫌な顔をするので、「ハングル講座」にしたらしいのです。でも日本語を「平仮名」と言ったら、おかしいですよね。朝鮮語か韓国語と言うしかありません。
外国語の呼称までその国に気を遣って、意味不明なことを言うのはどうかしています。NHK は奇妙な表現を広めて、日本人の精神を歪めようとしたのかも知れません。
(左翼は中国を「支那」と言うことにも反対します。ATOK も左翼が作っているのか、「支那」と変換できませんでした。赤字を出しているのに意地を張るのだから、朝鮮並みです。左翼はあちこちで悪さをしています。日本文化の改造を狙っているに違いないのです。)
ハングルは合理的な文字です。母音を表す記号と子音を表す記号を組み合わせ書きます。縦棒が「イ」を表し、[ が d の音を表すので、組み合わせて「ディ」を表すといった具合です。(これは例えばの話で、正確にそうだという訳ではありません。)だからハングルは大体規則的ですが、一音節を一文字で表すので、音節が多くの子音を含む場合、字形は複雑になります。
朝鮮語は25年くらい前1ヶ月勉強して、文字も少し読めるようになったのですが、すっかり忘れました。基本語彙は日本語に似ていて、語順は殆と同じなので、日本人には勉強しやすい言語です。興味のある人は勉強してみるといいでしょう。
マレー語とインドネシア語は殆ど同じ [他の言語]
【2009年06月10日】-インドネシア人がマレーシアの王室に嫁いだのは、日本人の感覚からすると不思議です。日本の皇室に外国人が嫁入りすることは考えられません。外国にはこのようなことが時々ありますが、両国は言葉や文化が似ているので、それも考え合わせるべきでしょう。
マレーシアとインドネシアは、文化が同じと言っていいようです。マレー語とインドネシア語は殆ど同じだからです。もともと一つの民族なのに、別の国の植民地になったから、別の国になったのでしょう。
シンガポールやブルネイもマレー語を公用語にしているので、主要な民族は元々同じなのでしょう。シンガポールには華僑もいますが。日本で譬えると、四国や九州が別の国になったようなものだと思います。
だからインドネシア人がマレーシアの王家に嫁ぐのは不思議ではありません。お互い標準語で話せば、意志の疎通に問題はなかったはずです。マレーシアに出稼ぎに行くインドネシア人も多いそうです。
マレー語などは、フィリピンのタガログ語とも共通点がありますが、片方が分かればもう一方も分かるほどには似ていないようです。
・数ヶ国に分かれた同一民族は他にもある
世界にはこのように同じ民族が別の国に分かれたので、言葉が殆ど同じ場合がいくつもあります。インドのヒンディー語とパキスタンのウルドゥー語も似ているそうです。会話は殆ど同じで、文章は文字と語彙が違うようです。ヒンディー語はデーバナーガリ文字を使い、ウルドゥー語はアラビア文字で書きます。北欧のノルウェー語とスエーデン語も綴りは殆ど同じですが、発音は違います。オランダ語とドイツ語の北部方言も似ています。
ロシア語とウクライナ語とベラルーシ語も、殆ど同じだそうです。フィンランド語とエストニア語も、よく似ているそうです。
言語と方言に絶対的な違いはありません。関東地方の人が九州の純粋な方言を聞いても、理解できません。理解できない方言もあるし、分かる外国語もあるのです。同じでも違う国だと外国語と言い、違っても同系統に属して同じ国なら方言と言うのです。
ヨーロッパで同一民族が違う国に分かれたのは歴史的な事情により、かなり自然なはずです。でもアフリカでは、違います。ヨーロッパの別の宗主国が支配したために、別の国に分断された民族が多数あるようです。欧州の植民地支配は、まだアフリカの人達に暗い影を投げかけている訳です。
参考資料:
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1114279021
http://homepage2.nifty.com/kmatsum/essays/FinnEst.html